今年の夏休み

 

時間にして24時間に満たないだろう。

だが、こうしてキーを叩いてる今の己は、充実した夏休みをとれたという満足感で一杯である。

ライフスライスをケータイしてればよかったのだが、最近ご無沙汰である。

文字に起こすというかたちをとろう。

 

どこから話をしようか。

己が最近、仕事に気合を注いでいるという話から発展して、京都の小林あつしと呑もうということになった。

己が極貧なので、あつしが京都から出向いてきてくれるということになった。

呑もうと予定していたのが土曜日。

金曜の晩22:00に「明日どうしようか」と電話を入れたら、あつしはまだ会社で「どうやら行けない。明日も会社だ。」という衝撃の返答。

当然、じゃ己が行くよということになる。(そうなのか?)

この夏はどこにも行けず、また最近三ヶ月にしても遠出をしていなかった。

「じゃあ、今から己が行くよ」と電話で恩を売るような言い方をしつつも

 

血が騒いでいた。

自分の中でスイッチが切り替わるのを感じる。

速攻でネットで本日分の夜行バスの空き状況をチェック。

帰省ラッシュの東京帰りは多いが、関西行きは少ないだろうという東京中心的な考え方をあざ笑うかのように全席ソールドアウト。

(この辺を成長というのだろうか。昔の己ならまず、新宿バス停に走り、そこで初めて売り切れを知ったものだった。)

往年のヒッチハイク再び!?

だが、最近の己は金を節約するよりも、稼げというイメージにシフトしてきている。これから己は成功する。己は稼ぐのだ。

そんな己からするとヒッチハイクは過去の手段だった。

 

新幹線で征く

どうせ、あつしは明日も会社だ。ゆっくり征けばいい。その日は寝ることにした。

 

翌日。

 

問題はやはり金だ。

引き出し等、かき集めにかき集めると15000円が集合した。15410円とかじゃなくホントに15000円ポッキリ。

債権者たちには申し訳ないが、この金でタナエヒサシ夏休みしちゃいます。

時間を気にせずのらりと風呂に入り、服をキメ、忘れ物がないかチェックし(成長)、ルームメイトのとつこによろしく言って、旅出発の火打ち石にもちろん『wildhearts/endless nameless No.11pump it up(エルビスコステロのカヴァー)』を近隣の迷惑顧みずボリューム115°でぶっ放し雨の東京から発つ。

 

 

ほんにこの夏に冷や雨というのは滅入る。だが、川が氾濫するのをみるのは好きだ。夏雨を あつめてはやし 妙正寺川

相変わらず、己が駅の手前に行くと電車が入って、己がホームに着く頃には出発し、その後に急行が通って、やっとまた各駅がくるというミスタイミングだがいちいち怒らない。

だって夏休みだもん。

 

土曜 13:12 西武新宿線 中井駅発 −330円 残金14670円

 

 

土曜 13:58 神田駅着

お金をできるだけ使わないために金券ショップで新幹線乗車券を買う。神田駅近くに金券ショップがあることを己は知っている。

やってねぇじゃねぇか!

貼り紙曰く「8月20日まで休業させていただきます。新宿、御徒町店は営業しています。」

新宿ぅ!?あ、御徒町もあるのか。よかった。

 

 

土曜 14:12 御徒町駅着 −130円 残金14540円

細かく電車代が削られているが金券ショップで一気に取り返すので問題ない。

「ごめんなさい。金券ショップが取り扱ってるものは回数券でして、8月12日から20日はJRの方で回数券の使用が出来ないんで本日分は発売してないんです。」

あ、そうスか。すごすご。

また裏目か!でも、あれ以来裏目には慣れまスた。

 

 

土曜 14:27 東京駅着 −130円 残金14410円

「夜行バスは混んでても新幹線は空いてるだろう」どこに自信の根幹があるか解らぬその予想は見事に外れ、みどりの窓口は金融恐慌バリに列が出来ている。

東京駅の新幹線切符売り場っていくつもあって、いくつも列に溢れている。しかもその列は整然としたものではなく双方向から並んだりとよくわからん並びになっている。

人々の生活感と逞しさを感じ、一人にやにやし、「でもこれって…」と思って誰も並んでいない自動発券機に直向かう。

はい。12420円。切符購入。

あの人たちはなにに並んでいるのだろう。

 

 

土曜 14:47発〜ひかり・岡山行き

36分発岡山行きもあったのだが、別に急いでないのと確実に座りたいのでこっちにした。

結構列ができてしまっているがまぁ、座れるだろう。

禁煙車。

喫煙車の方が列が長くなっているのだろうか。多分、そうじゃないだろうか。ノンスモーカーでよかった。

夏の新幹線のホームではリュックを背負った小学生が風物詩だ。

己の前にもブルーのリュックを背負った女の子が居た。

ポケットが沢山あって、どこのポケットになにを入れるかと色々工夫するのだ。

夏・昼・新幹線のホーム。母と新幹線で毎夏帰省していたときのことを思い出さずにはいられない。

新幹線がホームに入ってくる。今ではすっかり細長の顔になりクールな奴になってしまった。

掃除のおばちゃんがてきぱき座席のシーツを取り替える。

てきぱきやっているのに長ったらしくてしょうがなく思えたあの時。

うらめしそうに車内を眺めているより他なく、耐えきれず母親に恨み言を漏らすと当然たしなめられたあの時。

今の己は、読書をして時間をつぶしてしまっている。

 

 

 

土曜 14:47〜16:58 東京〜名古屋

からくも、窓側の席を取得できた。

もちろん、窓側に限る。

ゆったりと確保。

ミニテーブルを出して本とthinkpadを置き、リクライニングして一息つく。

新幹線で席に着けず、デッキで座ったりするなんて最悪だ。なんのために一万円以上も払っているのか。

できれば、通路にも人が立っていて欲しくない。

 

隣の席があいている。

いや、あけているというべきか。

嫌な言い方をすれば罠のロープがこの席に置いてあるようなイメージだ。

 

早速「空いてますか?」と、男性が。

己は多少大きな声で明るく「ええ、どうぞ」と応えるのだ。

 

この方は27歳。己と同い年。大宮でご友人三人と会社をやってらして木から家具を創ってらっしゃる。

会社の前には飛騨高山で親方についていたこともあった。

今日は実家の名古屋に帰られて明日は仕事で大阪に行かなければならない。

 

なんでそんなことが分かるかって?

お友達になったからだよ。

お名刺もいただいたし、最後は握手して別れた。

旅の友と名古屋までの間、互いの仕事を中心に色々なことを語り笑い合っていた。

新幹線で征く理由はここにもあったのさ。

 

 

土曜 17:02 名古屋〜京都

名古屋で隣があいて京都までまだ若干時間がある。

「次のゲストの方ぁ〜♪」なんて心の内ではしゃいでいると、

次に座った方は家族連れのお父さん。

ビールを携えてらしてゴキュゴキュと呑むと寝ちゃった。

う〜ん。

ま、モバイルでもしますか。

 

 

高速…。

が、好きなのだろう。己は。

高速で流れてゆく景色が好きだ。

宇宙から眺めれば巨大な建造物さえも、複雑な人々の営みも些細なことだ。

それは高速からの視野においても同じことが言えるかもしれない。

多少個性的な建物も、数多くの住宅も、商店街も学校も病院も…

一瞬で目の前から過ぎ去ってしまう。

飛行機の窓からみえる広大な雲の平野をのぞむ時も同じような気持ちを覚えるのだ。

みんな消える、過ぎる、なにもなくなってしまう光景に心惹かれるのはなぜだろう。

 

 

携帯が震える。

最近ではなんと新幹線のトンネルですら、電波が三本立つのだ。

電話は会社からだ。

うおっ!

名古屋まで来て帰還命令か!?

こちとらAD。

命令は絶対。

名古屋だろうがなんだろうが、来いといわれたら行かねばならぬ。

きょ、今日、休みでしたよね。

座席から立てなかったので電話には出れなかった。

留守電は入れられていない。

なんだろう…。

気が落ち着かぬまま京都に着いた。

 

 

土曜 17:46 京都着

無視しようか。

いや、妥協だろそれ。

仕事に妥協は許されない。

自分のために許してはならない。

やっぱり駅を出ない方がいいんだろうな。

このまま東京に戻った場合、やっぱり金は戻ってこないだろうな。

電話をかける。

かかる前に切る。

はぁ。

 

電話をかける。

 

上司が出る。

 

「おお。事務所に傘が一本もみあたんねぇんだけどよぉ。お前しらねぇか。」

…。

知らんス。

 

 

土曜 17:53 京都駅

あつしに電話。

出ない。

近代的な京都駅を楽しむ。

賛否両論だろうが己は好きよ。この駅。

てっぺんまで登って市街をながめる。(駅に展望台のようなところがあるのです。)

あつしから電話がくる。

「よぉ。よう来たなぁ。」

「来たぜはるばるよぉ。」

「今何しとる?」

「大空眺めてるぜ」

「そうか。ま、うちでくつろいでてよ。行き方を教えるよ…」とのこと。

あ!

数年前に京都駅にスンゲェでかい本屋ができたという広告をみたので、それを見に行きたい。

三省堂が宣伝されていたのでそれかと思って迷いつつ辿り着いたのだけど大したことなかった。

「こんなもんなのかい」と捨て台詞を残して去った。ここじゃないのかな。

 

 

土曜 19:31 あつし邸

迷いに迷ってあつし邸に着いた。「京都駅から30分なのにどう迷ったらこの時間になるんだ?」と笑われつつも辿り着く。

この時点で残金が14410−新幹線12420+地下鉄380で1610円。

1610円!?

どんな移民だよ。

あとで息子に「父さんが京都に移ってきたときはポケットに1500円しか持ってなかった」って誇らしげに語るのか?

今から言っておくと日曜の夕方に、表参道で呑むことになってるから、まぁ日曜18:00には東京に帰っていたいぞ。

 

どうやって帰んだよ。

 

なぁんてね。

これからの呑みはあつしに全部払わせるつもりだし、

東京への帰りには…

土方靖浩がいるじゃないか!

帰省中の奴が日曜に名古屋から東京に帰るのを知ってるのよ、己は。

京都から名古屋の移動はどうするかって?

なんとかなんだろ。

京都と名古屋なんて目と鼻なんだから。

と、何度旅しても東京からみた地理感覚が抜けないタナエヒサシであった。

土曜 19:31〜21:30 あつし邸 残金1610円

・勝手に服を着て、靴下を脱いで、布団をひいて超くつろぎながら漫画を読んであつしの帰宅を待つ

・お母さんの手料理をいただく

・休憩する

すると九時半を迎える。

あつしの自宅は初めてだったが、一発で馴染んだ。お母さんあたたかいです。己は一度通った道は忘れないので、もう一時間半も列車墓場をさまようことなく辿り着き、実の息子以上に息子する自信がある。

土曜 22:30〜 四条にくりだして呑み 残金1610円

先斗通りという、一般に期待して思い描かれるような京都っぽい小道を通る。

ライトがちょうどよく、店のたたずまいがちょうどよく、涼しい風が吹き、友と二人歩いていて非常に気持ちよかった。

そういえば今日は奇しくも大文字焼きの日であった。

しかし、大文字焼きはあつしと2000年冬に、一千年毎に行われるというミレニアムの大文字焼きをみたのでもうよいのだった。

 

さて途中、土方に電話をすると

「車の修理しなくちゃいけないからさ、昼に千葉に帰ってなくちゃいけないんだぁ。帰省ラッシュ避けて零時ちょうどに出る感じかな」

 

おいっ!

今から呑むっつぅのに零時に名古屋って…

あつし、京都何時に出れば零時に間に合う?

「今だろ」

おいっ!

一滴も酒呑んでねぇだろ。

思えば土方とのタイミングはいっつもこんな感じだ。

いつも難題が用意されてる感じ。

全身全霊を賭けたプレゼンテーションにより、土方を朝六時まで引き留めることに成功!

 

あつしと零時までサシ呑み。

あつしに教えてもらった隠れた名店にて。

「ひさし、1500円でどうやって呑むつもりだよ。」

「えへへ」

「しょうがねぇな、わかったよ。京にいる間はお前に一円も払わせねぇよ

きょ、京男ぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ

かっこよすぎです。

今年は早いと言われてる秋刀魚を早くも食す。

松茸の土瓶蒸しも喰った。

親戚の影響で己の中で夏の京都と言えば松茸の土瓶蒸しなのだ。

かわはぎの刺身が超絶品。肝うますぎ。

己はおごられるとなったら遠慮しませんよ。

生三本、日本酒三杯ってとこか。

あつしとはギャグ観が合うのでふたり、よく笑い合っている。

笑いの絶えない旅だった。

あつしとの呑みはひっじょうに熱く濃いものではるばるやってきた甲斐があった。最高の夜だった。

 

 

日曜 0:00 残金1610円

零時になるとあつしの友達が合流してきた。

お馴染みのオーちゃん。

お初は、月曜にフランスに帰ってしまうベッちゃん。

サルサがプロ級のりえちゃん。

僧侶、修行の身のケンジ。

みんなで呑む。

オーちゃんが明日名古屋で友達の誕生会があるというので名古屋に行くことになる。

はい、きた!

これで名古屋確定。いや〜、どうしようかと思ってたよ。

 

日曜 2:00 比叡山 残金1610円

日本酒が入るとやっぱり酔うな、己は。

なんかみんなで比叡山に夜景をみにいった気がする。

夜の琵琶湖が映えていて綺麗だった。

日曜 6:00 名古屋 残金1610円

軽く渋滞に悩まされつつも六時名古屋着。車で寝てました。ごめんなさいオーちゃん。

日曜 7:00 土方と合流 残金1610円

名古屋インター近くのマックで待ち合わせ。

あつし、オーちゃん、ケンジと四人でテーブルを囲み、朝食らしいものを食べる。(もちろん己は食べない)

朝な感じだ。

土方登場。

土方靖浩と京男たちが邂逅。

互いの魅力を知る己としてはゾクゾクした瞬間だ。

 

土方車に身を移す。

土方と己で車に乗るということはすなわちフルボリューム、ノンストップで歌を歌いながら、ということなのです。

友と趣味の合った音楽を妥協なく歌い合ってドライブする喜びは格別です。

さぁ東京へ。

 

行きは新幹線、帰りは車でハイスピードで帰ってきたわけだ。

心配していた渋滞にもほとんど悩まされず、天気はよくなくとも最高のドライブを楽しんで帰ってきた。

日曜 13:00 帰城 残金1610円

 

お手軽で最高の夏休みでした。

二十四時間以内で一万五千円以内で、

新幹線を満喫して京都行って、友達の家に寄らせてもらって、手料理があって、京都の町を楽しんで、

新しい友との出会いがあって、比叡山に登って、ピタリと気持ちよく予定が合って、ドライブを満喫して還ってくる。

 

さぁ!

充電完了!

征クゼ夏後半!

了)
03.08.18