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06.06.04 日曜日

8年物の赤ワイン

大学時代、“凛とした覚悟”辰野まどかからその倭[おとこ]を紹介された。

紹介されたといっても直接、己のために紹介してもらったのではなく
まどかと己が一緒にいたグループ全体に彼が紹介されたという感じ。

彼と己はサシで呑んだことはない。

しかし、彼は己の大学時代の一人暮らしの家にも来たことがあったし
現在のルームシェア物件「永福庵」にも来たことがある。

風呂に一緒に入ったことはあるか?

己は一緒に風呂に入ったことがない奴を信頼できない。

どうだろう?まぁいいや、とにかく。

つかず離れずな関係だ。

久しぶりに朝まで語った。

己は徹夜には興味がない。

よっぽどでなければ翌日の効率が悪くなるだけだ。

ならばよっぽどだったのだろう。

まどかと彼と己と3人で呑んだ。

この鼎談は初。

彼を紹介してもらったのが98年だから、8年目にして初の組み合わせだ。

タイミングは力強く実在している。

パーティーのテーブルから赤ワインをひったくって、
パーティーの主役であるまどかをひったくって
そしてゆかりのある彼をひったくる。

タイミングが満ちたことを知ったのだ。

パーティーの喧噪から離れたベランダへ。

みんながいるパーティーで閉じた空間を作るのは反則だと分かっているが
それでも、誰にも邪魔されたくない。

誰にも邪魔されたくないゼイタク。

重厚な金属の歯車がガキッと音をたてて嵌るように
我々3人の会話は嵌る嵌る。

なにかを分かり合っている。

いたずらに留年をし、なにも身に付かないまま職を転々とし、三十歳を迎え、
未だに何者でもなく、それを楽観的でもなく悲観的でもなくただただ見詰め
愛をもって友人と生きることを価値とする己。

大学を卒業して世界を回り、コーチングという概念が出始めた頃に、我が意を得たりとそれを捕まえ、
職とし、そのバックグラウンドを背負いながら新しい教育を模索し、学生に戻り留学している
“凛とした覚悟”辰野まどか。

元々食に興味があり、大学時代はコックのバイトをし、大学卒業後は食品関係の企業に就職するかと
考え、やはりコックの道を捨てきれず、恵比寿で働き、イタリアで三年修行し、帰国し東京で尚
修行中の“伊厨紳士”山本慎弥。

3人の8年は溶け合い、美しく発酵し、赤ワインとなって目の前に具現しているかのよう。

最高のゼイタクを呑み干す。

 
辰野家を出て始発で還る。

山本慎弥と2人で駅まで歩く。

さっきまで弾んでいた会話はどこへやらというくらい無言が彼と己の間に横たわる。

それはつまり、彼は己のことが好きで、己は彼のことが好きだということなのだ。


投稿者 多苗尚志 : 2006年6月 4日 00:39編集
[ 辰野まどか伝山本慎弥伝 ]

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